2025年5月30日
2025年6月1日より、改正労働安全衛生規則が施行され、企業における熱中症対策が罰則付きで義務化されます。 これにより、従業員の安全と健康を守るため、企業は具体的な対策を講じる必要があります。
目次
近年、気候変動の影響により、夏季の気温上昇が顕著になり、職場での熱中症による労働災害が増加しています。
厚生労働省のデータによると、2023年には全国で1,106人が熱中症で労働災害と認定され、そのうち31名が死亡しています。
これまでの「努力義務」では対策が徹底されないケースも多く、従業員の安全確保には限界がありました。
そこで政府は、予防策を明確に義務化し、違反時には罰則を設けることで、すべての企業に確実な対応を求める方針に転換しました。
この義務化の目的は、単に罰則を設けることではありません。企業が能動的に熱中症のリスクを評価し、具体的な予防策を講じることで、労働者が安心して働ける環境を整備し、熱中症による健康被害や死亡事故をゼロにすることを目指しています。
義務化の対象となるのは、作業環境が「高温状態」にある職場です。
具体的には、暑さ指数(WBGT値)が28度以上、または気温が31度以上の環境で、連続して1時間以上、もしくは1日4時間以上作業を行うケースが該当します。
これには、建設現場、製造業、農業、物流業など、屋外や高温多湿な環境での作業が含まれます。
「暑さ指数(WBGT)」は、熱中症の危険度を示す指標として国際的に用いられています。気温、湿度、輻射熱(地面や建物からの熱)を取り入れた総合的な指標であり、より実態に即した熱中症リスクを評価できます。
今回の義務化により、事業者はWBGT値を測定し、その値に応じた措置を講じることが義務付けられます。具体的には、WBGT値が一定基準を超えた場合、作業の中止、休憩時間の延長、作業時間の短縮などの措置が必要となります。
熱中症対策を効果的に進めるためには、明確な管理体制が不可欠です。事業者は、熱中症対策の責任者を指名し、従業員への周知、教育訓練の実施、対策の実施状況の確認などを適切に行う体制を整備することが義務付けられます。
企業が熱中症対策義務を怠った場合、法人や代表者らに6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。また、熱中症対策義務化の対象作業に該当しない業務においても、作業強度や着衣の状況等によっては、熱中症のリスクが高まるため、上記に準じた対応が望ましいとされています。
企業は、従業員が熱中症の初期症状を訴えた際、迅速に社内で共有・報告できる体制を整備することが求められます。具体的には、作業中の異常をすぐに伝えられる連絡体制(例:専用の連絡アプリや当番制度)や、報告を受けた管理者が対応できるマニュアルの整備、体調異常時の一時退避や救急対応の明確化などが必要です。
熱中症が疑われる症状が出た場合の「重篤化を防ぐための対応手順」の策定と周知も義務となります。これは、倒れた従業員への初期対応や救急要請の流れを事前にマニュアル化し、現場で誰もが迅速に対応できる体制を整えることを意味します。
作業環境の温度や湿度を適切に把握し、必要な予防措置を講じることが求められます。具体的には、WBGT値の定期的な測定や、冷房設備の設置、通風の確保、作業時間の短縮、休憩時間の確保などが含まれます。
従業員に対して熱中症の危険性や対応策についての教育・周知を行うことが求められます。
具体的な教育内容には、熱中症の症状とその見分け方、水分補給のタイミングと方法、熱中症予防グッズの使用方法、作業者同士の声かけと見守りなどが含まれます。
最近ではeラーニングや動画教材を使った教育方法も普及しており、社員が自分のペースで学べる環境も整いつつあります。
2025年6月まで時間は限られています。今から計画的に準備を進めることが重要です。
自社の作業環境(屋内・屋外、空調状況など)を詳細に把握。
過去の熱中症発生事例を振り返り、リスク要因を特定。
WBGT計を導入し、定期的な測定を開始。
リスクアセスメントの専門家やコンサルタントに相談することも検討。
特定したリスクに対して、どの対策を講じるか具体的に決定。
必要な設備投資(空調、換気扇、WBGT計、冷却グッズなど)の予算を確保。
補助金や助成金制度の活用も検討(例:業務改善助成金、人材開発支援助成金など、各自治体や省庁が提供する制度)。
熱中症対策の責任者を指名し、役割と権限を明確化。
従業員への情報共有、教育訓練の実施計画を策定。
義務化の内容と自社の対策について、全従業員に説明会や研修を実施。
熱中症予防に関する資料を配布し、理解を深める。
本格施行前に、可能な範囲で対策をテスト運用し、課題を洗い出す。
従業員からのフィードバックを収集し、対策を改善する。
Q1:全ての企業が対象ですか?
A1:はい、労働安全衛生法が適用される全ての事業者が対象となります。業種や企業規模に関わらず、熱中症のリスクがある場合は対策が義務付けられます。
Q2:違反した場合、罰則はありますか?
A2:労働安全衛生法に基づく義務に違反した場合、労働基準監督署による指導や是正勧告が行われる可能性があります。悪質な場合は罰金や事業停止命令などの罰則が科される可能性もあります。何よりも、従業員の健康と安全を損なうという社会的責任が問われます。
Q3:テレワーク中の社員への熱中症対策は必要ですか?
A3:テレワーク中の社員についても、事業者は安全配慮義務を負います。在宅環境の熱中症リスクについて情報提供を行い、必要に応じて注意喚起や休憩の促し、空調設備の利用推奨などを行うことが望ましいです。ただし、家庭内の環境に対する直接的な管理は難しい側面もあるため、適切な情報提供と自己管理の促進が中心となります。
Q4:補助金や助成金はありますか?
A4:はい、熱中症対策に関する補助金や助成金は、厚生労働省や各自治体で実施されている場合があります。例えば、働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)や、各自治体の地球温暖化対策補助金などが該当する場合があります。最新の情報は、厚生労働省や各自治体のウェブサイト、または労働局にご確認ください。
熱中症になってしまった、もしくはその気配のある作業員を発見したら、ウェアラブルカメラや一人作業現場にカメラを設置することでいち早く報告、また映像を映しながら適切な処置を仰ぐこともできます。
熱中症を発見、素早く周知できるAIカメラはこちらもご覧ください。
2025年6月1日から施行される熱中症対策義務化は、企業にとって重要な法改正です。
従業員の安全と健康を守るため、報告体制の整備、悪化防止措置の準備、作業環境の管理、従業員への教育と周知など、具体的な対策を講じる必要があります。違反時には罰則も科されるため、早急な対応が求められます。
企業は、これらの対策を通じて、安全で快適な職場環境の実現を目指しましょう。