2025年6月10日
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カスハラ対策義務化 チェックリスト・補助金 資料ダウンロード
目次
2025年6月4日に、カスハラ対策を雇用主に義務付ける法律が国会にて可決・成立しました。
同法は、労働施策総合推進法を改正して、カスハラ対策を事業主の「雇用管理上の措置義務」とすることを主な内容とするものです。労働者が1人でもいれば、事業主に該当すると考えられます。この義務に違反した事業主は、報告徴求命令、助言、指導、勧告または公表の対象となるため、事業主は、施行日である2026年10月1日までに対応必須となります。
また、厚生労働省は、2026年2月26日に「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」を公表しました。企業はこの指針を参考にしながら、社内での方針の策定、内部規程やマニュアル等の作成、教育・研修等のカスハラ対策を着実に進めていく必要があります。
昨今、「カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)」による従業員への精神的負荷や退職リスクが企業にとって深刻な問題となっています。
これまで多くの企業が、従業員個人の対応力や忍耐に頼る形で、この問題と向き合ってきました。しかし、その限界は明らかです。そして今、国が大きく動きました。
2025年6月4日、カスハラ対策を事業主に義務付ける法律が成立し、これまで努力義務に留まっていた企業の姿勢を根本から変える、大きな転換点を迎えました。本記事では、この法改正の背景から、企業に具体的に何が求められるのか、そして2026年10月の施行に向けて今すぐ何を始めるべきかまで、徹底的に解説します。
「まだ先の話」と先延ばしにするか、「今から準備を始める」かで、企業の未来は大きく変わります。従業員を守り、持続的な成長を遂げるために、ぜひ最後までお読みください。
対策を講じる前に、まずは敵の正体、つまり「カスハラ」とは何かを正確に理解する必要があります。
厚生労働省は、2022年に公表したマニュアルの中で、カスハラを以下のように定義しています。
「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」
少し難しい表現ですが、ポイントは以下の2点です。
そして、これらの行為によって「労働者の就業環境が害される」状態が、カスハラと判断されます。
具体的には、以下のような行為がカスハラに該当すると考えられています。
| 行為の態様 | 具体例 |
|---|---|
| 身体的な攻撃 | 殴る、蹴る、物を投げつける |
| 精神的な攻撃 | 脅迫、中傷、侮辱、名誉毀損、暴言、人格否定 |
| 威圧的な言動 | 大声で怒鳴る、机を叩く、長時間居座る、従業員を睨みつける |
| 継続的・執拗な言動 | 何度も同じ内容で電話をかける、SNSで執拗に誹謗中傷する |
| 要求内容が不相当な言動 | 土下座の要求、金銭の不当な要求、自社製品・サービスの無償提供の強要 |
| 時間的・場所的拘束 | 長時間にわたり従業員を拘束する、自宅や職場に押しかける |
| 性的言動 | 容姿に関する不必要な発言、性的な冗談、食事へのしつこい誘い |
これらの行為は、従業員の心に深い傷を残し、メンタルヘルス不調や休職、最悪の場合は離職へと繋がります。そしてそれは、企業にとっても生産性の低下、ブランドイメージの毀損、新たな人材採用コストの増大といった、計り知れない損失となるのです。
これまでも、カスハラ問題は存在していました。なぜ今、国は法改正に踏み切ったのでしょうか。その背景には、いくつかの複合的な要因があります。
今回の法改正は、この「努力義務」を「義務」へと格上げし、パワハラと同様に、企業がカスハラ対策に組織的に取り組むことを法的に明確に位置づけるものです。これにより、対策の実行力と実効性を飛躍的に高める狙いがあります。
改正労働施策総合推進法では、すべての事業主に対し、以下の措置を講じることが義務化されます。
| 対象 | 事業主に求められる措置 |
|---|---|
| 相談窓口設置 | 被害相談の受理と適切な対応体制を整備 |
| 抑止対策 | カスハラ防止の社内ルールや研修を実施 |
| 再発防止措置 | 被害時のケアや対応フローの整備 |
| 不利益取扱い防止 | 相談者への不当な処分を禁止 |
| 従業員教育 | 全従業員への啓発・注意喚起の実施 |
厚生労働省が2026年2月26日に公表した指針では、これらの措置の具体的な実施方法が示されています。
施行日は2026年10月1日。無視できない法改正であるため、今すぐ準備を始める必要があります。
2026年10月の義務化で、企業には具体的にどのような措置が求められるのでしょうか。2026年2月26日に公表された指針に基づき、企業が必ず講じなければならなくなる措置は、以下の4つの柱からなります。
「2026年10月までまだ時間がある」と考えるのは危険です。効果的な対策の導入には、相応の時間と準備が必要です。ここでは、今すぐ着手できる具体的なアクションプランを6つのステップでご紹介します。
STEP1:経営トップによる「断固たる宣言」
全ての始まりは、経営トップの強い意志表示です。「我が社は、従業員の人格と尊厳を守る。いかなるハラスメントも許さない」というメッセージを、朝礼や社内報、公式サイトなどを通じて社内外に明確に発信しましょう。この宣言が、今後のすべての取り組みの拠り所となります。
STEP2:社内規程・マニュアルの整備
就業規則の改定: 「職場のハラスメントの禁止」に関する規定に、顧客等からのハラスメント(カスハラ)も対象であることを明記します。
カスハラ対応マニュアルの作成:
カスハラの定義と具体例
対応の基本姿勢(傾聴、共感、ただし毅然と)
初期対応の手順(担当者レベルでできること)
エスカレーションの基準(どのような場合に上司や専門部署に報告するか)
記録の取り方(5W1Hを正確に)
警察や弁護士との連携手順
STEP3:相談窓口の設置と周知徹底
人事部内、あるいはコンプライアンス部門などに専門の相談窓口を設置します。外部のEAP(従業員支援プログラム)サービスを活用するのも有効な手段です。そして、その窓口の存在と連絡先、利用方法を、ポスターやカードなどで全従業員がいつでも確認できるように徹底して周知します。
STEP4:役割に応じた研修の実施
対策を形骸化させないために、教育は不可欠です。
全従業員向け研修: カスハラとは何か、会社の対応方針、相談窓口の存在などを学び、自分ごととして捉える機会とします。
管理職向け研修: 部下から相談を受けた際の適切な対応(二次被害の防止)、事実確認の方法、エスカレーションの判断基準など、マネジメント層としての役割を学びます。
窓口担当者向け研修: より専門的な傾聴スキルや、法的な知識、精神的な負担を抱える相談者への対応方法などを習得します。
STEP5:顧客への協力依頼(意思表示)
従業員を守る姿勢を、顧客にも理解してもらうことが重要です。店頭やレジ横、公式サイトの分かりやすい場所に、「お客様へのお願い」といった形でポスターを掲示しましょう。
(例)「私たちは、お客様に心からご満足いただけるサービスを目指しています。そのためにも、従業員が安心して働ける環境にご協力ください。暴言や威嚇など、他の従業員やお客様の尊厳を傷つける行為があった場合、サービスの提供をお断りすることがございます。」
このような意思表示は、悪質な要求への抑止力となります。
STEP6:外部専門機関との連携体制構築
すべての事案を自社だけで解決するのは困難です。対応に窮する悪質なケースに備え、平時から地域の警察署や顧問弁護士、産業医といった専門家と連携し、いざという時にすぐに相談できる体制を構築しておきましょう。
カスハラ対策の義務化と聞くと、「また仕事が増える」「コストがかかる」とネガティブに捉える向きもあるかもしれません。しかし、それは大きな誤解です。
従業員をカスハラから守ることは、企業の未来を守るための、極めて重要な「投資」です。
ある金融機関では、カスハラ被害の相談件数が全体の20%に達したことを受け、2025年から専門研修と電話相談窓口を設置しました。
従業員アンケートの「安心して働ける職場」の項目が+15%増加し、顧客対応品質も向上しました。
カスハラ対策の義務化で求められる「事実関係の迅速な確認」と「再発防止」を実現する上で、最も有効なツールがボディカメラ(ウェアラブルカメラ)です。
なぜボディカメラが必要なのか?
カスハラ被害における最大の課題は「証拠がない」ことです。暴言や威嚇的な態度があったとしても、客観的な記録がなければ:
ボディカメラが実現する3つの効果
| 効果 | 詳細 |
|---|---|
| ①ハラスメント抑止 | カメラを装着している従業員に対して、顧客は「記録されている」という認識を持つため、暴言や威嚇行為を自制する傾向があります。小売・介護・接客業界での導入事例では、導入後にクレーム件数が平均30〜40%減少したという報告があります。 |
| ②法的証拠の確保 | 高品質な映像・音声で、いつ・誰が・どのような言動をしたかを客観的に記録。万が一訴訟に発展した場合でも、動かぬ証拠として活用できます。警察への被害届提出や、弁護士への相談時にも、記録があることで迅速な対応が可能になります。 |
| ③従業員の心理的安全性向上 | 「会社が自分を守ってくれている」という実感が、従業員のメンタルヘルス改善に直結します。ボディカメラの存在自体が、企業の従業員保護姿勢を可視化する強力なメッセージとなります。 |
クラウド連携で即座に管理者が確認可能
最新のボディカメラシステムは、撮影した映像をリアルタイムでクラウドにアップロード。現場で何が起きているか、管理者が遠隔地からでも即座に把握し、必要に応じて応援を派遣したり、警察への通報を判断したりすることができます。
2026年10月の義務化に向けて、「記録を残せる体制」を今から構築することが、真の意味でのカスハラ対策です。
録音したデータは管理画面から再生・ダウンロードなどが可能です。
顧客との電話やカスタマーセンターでハラスメントを受けた場合、すべての通話を自動で録音することで、証拠を残すことができます。
また、言った言わないのトラブル、聞き間違いやメモのし忘れを防止従業員の心理的負担を減らすこともできます。
録音する旨のアナウンスを事前に流すことでカスハラ対策にも有効です。
全通話録音についてはこちらもご覧ください。
東京都では、団体や企業等におけるカスタマーハラスメント防止対策を推進する様々な取組を展開しています。
カスハラ防止対策の進め方や、カスハラの事例等について、
労務管理やメンタルケア、消費者保護等に関する経験が豊富な専門相談員による相談を開始しているほか、奨励金・補助金の募集を行なっています。
条例施行日(令和7年4月1日)以降、マニュアルを整備し、実践的なカスハラ防止対策を行った企業等に対し、奨励金を支給します。
○規模:(3か年で)10,000件 金額:定額40万円
○主な支給要件
(1)カスハラ防止対策マニュアルの作成
(2)以下①〜③いずれかひとつの対象の取組の実施
①録音・録画環境の整備 ②AIを活用したシステム等の導入 ③外部人材の活用
会員企業及びその従業員向けに防止対策の体制を整備※した場合に、奨励金を支給します。
※申請し、都が交付決定した取組が対象です。
○規模:30件 金額:最大100万円
○主な支給要件
(1)企業向けカスハラ対策方針の策定・周知(20万円)
(2)カスハラ防止対策のサポート窓口の設置(40万円)
(3)カスハラ対策研修の実施(20万円)
(4)外部人材等活用によるカスハラ対策の実施(20万円)
顧客等との接点を効果的に活用し、防止対策と条例の普及に都と連携して取り組む団体を支援します。
(補助率:1/2 補助上限:5,000万円 規模:10件程度)
※記載内容は変更される可能性があります。以下の詳細については東京都カスタマーハラスメント防止対策HPをご覧ください。
https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/kaizen/ryoritsu/kasuhara/index.html
2025年6月4日に成立し、2026年10月1日に施行される改正労働施策総合推進法では、カスハラ対策がすべての事業主に義務化されます。すべての企業にとって、避けては通れない経営課題です。
この法改正は、単なる規制強化ではありません。これまで声なき声を上げてきた従業員を守り、理不尽な要求に企業が組織として立ち向かうための、法的根拠と社会的な追い風を与えてくれるものです。
カスハラは、対応する従業員個人の問題ではなく、組織全体で取り組むべき問題です。義務化を「やらされ仕事」と捉えるのではなく、自社の職場環境を見直し、従業員一人ひとりが尊重され、安心して能力を発揮できる企業文化を構築する絶好の機会と捉えましょう。
今から
社内整備を始めることが、法改正後の混乱を防ぐ最良の策
です。