2023年2月10日
「労務管理」とは企業の発展に必要な人材を、その労働生産性を高める目的から、従業員にかかわる職場環境を管理する業務です。
具体的にはどういうことでしょうか。
本記事では、労務管理の基本を丁寧に解説して、近年のテレワークや副業などの労務管理の対応などについて書いていきます。
労務管理とは、従業員の労働条件や労働環境を整備・管理する仕事を指します。
具体的には、労働者と使用者・経営者との間で結ばれる多様な約束事、労働時間や休日・休暇、福利厚生、賃金や賞与、手当てといった「労働条件」にまつわる事項になります。
よく聞かれる「人事管理」と「労務管理」の違いがあります。 人事管理は、従業員の雇用から退職するまでを管理する仕事で、従業員の採用、異動、人事考課などの業務があります。 労務管理は、組織を対象とした働く環境を最適にするための管理となり、すべての社員が働きやすい環境を作るための管理となります。 労務管理の基本の説明をしている記事もありますので、ご参照下さい。
労務管理で行う具体的な仕事内容を解説していきます。
雇用契約書の作成は、新卒および契約社員の雇用時と契約社員の労働契約更改時期に行います。
新入社員の雇用は4月が一般的ですが、企業によって3月や9月に行ったり、近年では転職市場が活況のため、中途採用を積極的に推進している企業は年間スケジュールに関係なく、雇用するケースが多くなっています。
雇用契約書とは、企業と従業員が労働条件について合意した内容を記載した書面です。
原則、労働条件は労働基準法によって労働契約締結時に書面(またはファクシミリ、メール等)で明示しなければならないと定められています。
雇用契約書は、どんな場合でも必ず記載の必要がある「絶対的記載事項」と企業が該当の制度を設けている場合記載の必要がある「相対的記載事項」の二つが存在します。
労働契約期間
就業する場所
具体的な従事する業務内容
始業/終業時刻
交代制に関してのルール
所定労働時間を超過する労働(残業)の有無
休日 / 休暇 / 休憩時間
賃金に関する事項(支払方法・締切日・支払日など)
退職・解雇関連の規定
+パート・アルバイト等の短時間労働者は、以下の内容の明示の必要があります。
昇給があるかないか
退職手当があるかないか
賞与があるかないか
「雇用管理」担当部署名と担当者名
退職手当の適用される労働者の範囲
退職手当の具体的な決定/計算/支払方法
退職手当を支払う時期
臨時で支給される賃金について(賞与・奨励加給・精勤手当など)
最低賃金額について
労働者の負担となる食費・作業用品について
安全衛生関連の事項
職業訓練制度について
業務外の傷病扶助・災害補償制度
表彰・制裁の制度
休職関連の事項
※「相対的」でも、これらに該当する制度を設置している場合、記載の必要があります。
労務管理の際には、先述した「法定三帳簿」を作成する必要があります。 作成のみならず、紛失などが無いよう厳重に保管する必要があります。 記載事項と保存期間については、法令によって定められているため注意が必要です。
従業員の氏名や生年月日、人事・労務に必要となる個人情報を記録した帳簿となります。
起算日:退職・解雇・死亡の日
賃金計算期間、労働日数・労働時間、基本給・手当、税金の控除額など、従業員に対する給与の支払い状況を記載した帳簿となります。
起算日:最後の賃金について記入した日
出勤日、出勤・退勤時刻、労働日数など従業員の労働時間に関する記録をまとめた帳簿となります。
起算日:最後の出勤日
常時10人以上の従業員を使用する企業は、労働基準法の規定により就業規則の作成と所轄の労働基準監督署長への届出義務が発生します。
就業規則を変更する場合も、同様に届け出なければなりません。就業規則の変更は、法改正が行われることの多い4月に実施する場合が多いといえます。常時10人以上の労働者を使用するに至った場合は遅滞なく届け出る必要があります。
(労働基準法施行規則49条)
就業規則に記載すべき内容には、「絶対的必要記載事項」と「相対的必要記載事項」があります。絶対的必要記載事項は必ず記載しなければならない事項で、相対的必要記載事項は、会社で定めている事項があれば記載しなければなりません。それぞれ、記載漏れのないように、しっかりと確認しておきましょう。
労働日における始業と終業の時刻
休憩時刻、休憩時間、その与え方
休日となる日
休暇(年次有給休暇、産前産後休暇、生理休暇、冠婚葬祭等の特別休暇など)
シフト制を敷いている場合は、就業時転換に関する事項(交代期日、交代時刻、交代順序など)
賃金の決定方法、計算方法、賃金の決定要素、賃金体系
賃金の締め日、支払日、月給・週給・時給等の区分
昇給の時期、その条件
解雇の事由を含む退職関連事項(退職手続き、解雇の理由、定年など)
退職手当(適用される労働者の範囲、計算要素、計算方法、一時金か年金かの支給方法と支給時期)
退職手当を除く一時金、臨時の手当
最低賃金額
食費・作業衣・作業用品などの負担
安全及び衛生に関すること
職業訓練(訓練の種類、時期、対象者、訓練中の処遇)
業務上及び通勤途上の災害補償、業務外の傷病に関すること
表彰(表彰の種類、事由、手続き)
制裁(制裁の種類、事由、手続き)
休職、出向、出張旅費など
入社手続きにおいて、雇用契約とともに、社員の社会保険・雇用保険の加入手続がもあります。
社会保険(厚生年金保険、健康保険)は所轄の年金事務所および企業が加入している健康保険組合、雇用保険は所轄のハローワークで資格取得手続きを行います。
社会保険は所轄の年金事務所、または加入している健康保険組合で資格取得手続きを実施します。
また、雇用保険に関しては所轄のハローワークでの手続きとなり、提出書類は下記になります。
・厚生年金保険:厚生年金保険被保険者資格取得届(添付書類は原則必要なし)
・健康保険:健康保険被保険者資格取得届(添付書類は原則必要なし)
・雇用保険:雇用保険被保険者資格取得届
従業員の勤務状況を記録する勤怠管理を行います。
始業や終業時刻、時間外労働時間数、休日労働時間数、早退などを記録、管理します。
労務管理業務のひとつである「安全衛生管理」は、労働安全衛生法により、事業場における安全衛生を確保するための措置や、従業員の健康の保持増進を図るための対策(健康管理)を講じることが義務付けられています。
従業員の健康管理は、年一回実施の定期健康診断やメンタルヘルスチェックなどになります。
また、常時50人以上の従業員を雇用している企業は、所轄の労働基準監督署長への定期健康診断結果の届出、安全衛生管理体制(産業医の選任、衛生管理者の選任など)の整備が義務となります。
【参考文献】厚生労働省 事業場における労働者の健康管理の流れ
「パワーハラスメント対策」が2020年4月から法制化されたため、労務管理の業務として必要なパワーハラスメント対策措置を行うことが義務となります。
このパワーハラスメント対策の法制化に伴い、セクシュアルハラスメントなどの防止対策も強化され、職場におけるハラスメント防止のために、必要な措置を講じなければ是正指導の対象となります。
ハラスメント対策は、是正指導を受けないように十分な対応を検討しておきましょう。
【参考文献】厚生労働省 職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)
労務管理における退職手続きは、社会保険・雇用保険の脱退手続き、労働者名簿の更新、退職手当の支給などが対象となります。
社会保険は退職日から5日以内、雇用保険は退職日の翌日から10日以内に、加入手続きと同様に所轄の年金事務所および健康保険組合、ハローワークへ資格喪失届を提出します。ハローワークから発行される「離職票」は、退職した従業員へ送付しなければなりません。資格喪失手続きが遅れると離職票の発行も遅くなってしまうため、届出漏れがないように気を付けておきたいポイントです。
退職手当の規定がある企業は、就業規則で定められている方法で退職した従業員へ退職金を支給します
休職手続きには、育児のための育児休業、ケガや病気などの傷病休職、介護を理由とした介護休職などがあります。
休職に伴い、社会保険・雇用保険の保険料手続きや育児休業給付金・介護休業給付金といった保険給付の申請、傷病手当金の請求などが必要になります。
異動手続きに関しては、住所変更や社会保険料の報酬月額変更届を提出する必要もあります。
近年、人々の働き方は多様化しています。「テレワーク」や「在宅勤務」「ワーケーション」などの場合には、どのように労務管理をすればよいのでしょうか。労務管理のポイントを、ケース別にご紹介します。
インターネットの情報通信技術を利用して行う事業場外勤務、いわゆる「テレワーク」や「在宅勤務」は、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方であることから、子育て、介護と仕事の両立手段となるとともに、ワーク・ライフ・バランスを図ることができ、多様な人材の能力発揮が可能となります。
しかし、一方では従業員の確認が難しい状態で、企業側は「労働時間の管理が難しい」等が、労働者側からは「仕事と仕事以外の切り分けが難しい」、「長時間労働になりやすい」等の問題点が挙げられています。
そのため、テレワークを考慮した社内ルールを明確にしましょう。
「就業規則の変更」「在宅勤務規定の策定」といった対応をするかたちになります。
「交通費や諸手当の支給をどうするか」「光熱費や通信費を企業が負担するか」なども定義しておいたほうがよいでしょう。
勤務時間の管理は、クラウドシステムを利用して正確に不正がない整備をしておきましょう。
【参考文献】:厚生労働省『テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン』
年々、副業・兼業を希望する方が増えています。収入を増やしたいといった収入面だけでなく、スキルアップや人脈を広げたい、起業をしたいなど色々な理由があります。
厚生労働省は2020年9月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改定し、労働時間の通算や安全配慮義務、秘密保持義務、競業避止義務など、副業・兼業におけるルールをより明確にしました。
2022年7月に再改定し、副業・兼業により労働者が適切な職業選択を通じ、多様なキャリア形成を促進するため、企業が副業・兼業に関する情報の公表を推奨しています。
兼業・副業をしている場合、自社と副業・兼業先での労働時間を通算して、労働時間を管理するのが原則となっています。
しかし2020年に改定されたガイドラインでは、労働時間管理を簡便にするため、「管理モデル」という新しい方法が導入されました。
管理モデルを使った場合、一定の範囲内で、自社と副業・兼業先が事業場における労働時間の上限をそれぞれ設定することが可能です。
管理モデルを実施すれば、副業・兼業する従業員が企業で設定した労働時間の範囲内で働いてもらえます。
管理モデルは、労使双方で手続きの負担が軽くなり、労働基準法に定める最低労働条件が遵守されやすくなる方法なので、是非利用を検討しましょう。
【参考文献】:厚生労働省『副業・兼業の促進に関するガイドライン』
厚生労働省『副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説』
このように、労務管理は社会環境や法改正などに併せて、対応していかなければなりません。
労務管理の一環として業務改善に取り組むために、以下の対策方法があります。
労務管理の仕事において、総務や人事など多岐にわたる業務を行うケースも多くあり、充分な時間を確保できない場合があります。
その場合はアウトソーシングを検討しましょう。
労務管理は法律まわりや従業員の健康管理など、専門的知識が必要になるのでノウハウや経験がある専門家や外部スタッフと連携しながら進めていきましょう。
勤怠管理や給与計算、書類手続きなど、業務ルーティンが多い労務管理には、人事労務システムの活用をすることが有効です。
特に今は、クラウドシステムになっているた、費用も安くテレワークでも利用も可能なため、使わない理由はないと言えます。
労務管理の基本は、労務トラブルの防して従業員が安心して働ける職場をつくり、さらには従業員の業務効率を上げることになります。
労務管理の担当者は、労働契約から社会保険の手続き、従業員の健康管理と、労務管理の業務は幅広く手間がかかります。また法令遵守やプライバシー保護に気をつけながら行うことはもちろん、テレワークや副業の兼務など新しい働き方への対応をしていかなければなりません。
複雑な労務管理を効率よく行っていくためには、資格取得や専門家への依頼、クラウドシステムの利用を行っていきましょう。
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