2026年8月19日
「カスハラ対策規程を作れ」と言われても、何をどこまで書けば法的な義務を満たしたことになるのか、判断できない。──2026年10月1日の施行を前に、経営者・役員の方から最も多く寄せられるのがこの悩みです。
インターネット上には条文例が数多く公開されています。ただ、そのまま社内規程として採択してしまうと、「規程はあるのに義務を満たしていない」という状態になりかねません。厚生労働省の指針が求めているのは、方針を文書化することだけではなく、その方針を実行できる体制まで整えることだからです。
本記事では、厚生労働省告示第51号「カスタマーハラスメント防止指針」に沿ったカスハラ対策規程のひな形(全8条)を条文単位で提示し、あわせて、ひな形をそのまま流用したときに生じる3つの落とし穴と、規程を実効性のあるものにするための運用のつなぎ方を、経営判断の観点から解説します。
※本記事は2026年8月19日時点の公表情報にもとづいて作成しています。本記事に掲載する条文例は、厚生労働省告示第51号の内容にもとづき当社が作成した参考例です。実際の採択にあたっては、自社の業種・就業規則との整合を踏まえ、社会保険労務士・弁護士等の専門家によるご確認をおすすめします。
カスハラ対策規程とは、顧客等からの著しい迷惑行為に対して会社としてどう対応するかを定めた社内規程です。2026年10月1日施行の改正労働施策総合推進法により、事業主には方針の明確化・周知が義務づけられ、その中核文書となります。必要な条文は「目的/定義/基本方針/従業員の対応/悪質行為への対処/記録と証拠の保全/相談窓口/プライバシー保護と不利益取扱いの禁止」の8つです。就業規則とは別の独立規程として作成し、就業規則本則から委任する形が実務上最も扱いやすい方法です。
条文のひな形は「カスハラ対策規程のひな形【全8条】」の章に全文を掲載しています。先に「ひな形をそのまま使うと危ない3つの条文」を読んでから採択されることをおすすめします。
経営判断としてまず押さえるべきは、「規程を作らなかった場合に何が起きるか」です。結論から言えば、刑事罰はありません。しかし、行政と司法の両面からリスクが生じます。
改正労働施策総合推進法の措置義務に違反しても、懲役や罰金は科されません。ただし、都道府県労働局による報告徴収・助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わない場合は企業名が公表されます。加えて、報告を求められて報告しない、または虚偽の報告をした場合は20万円以下の過料の対象です。
ここで重要なのは、規程が「ある/ない」は行政にとって最も確認しやすい事実だという点です。研修の実施状況や現場の運用実態は外部から見えにくいのに対し、規程の有無は書面一枚で判定できます。規程の不存在は、調査が入った際に真っ先に指摘される項目だと考えてください。
実務上より重いのは民事リスクです。従業員がカスハラを原因として精神疾患を発症した場合、企業は労働契約法第5条の安全配慮義務違反を問われる可能性があります。
義務化前であれば「法的な基準がなかった」という主張の余地がありました。しかし2026年10月1日以降は、厚生労働省の指針という明確な基準が存在します。指針が求める方針の明確化を怠っていた事実は、予見可能性・結果回避可能性のいずれの論点でも企業側に不利に働きます。規程は、訴訟になったときに会社を守る文書でもあります。
どこまで我慢すべきかの基準がなければ、判断は個々の従業員に丸投げされます。結果として対応がばらつき、対応した本人が社内で責められる構図が生まれます。
出入禁止も、取引停止も、警察への通報も、「会社の意思決定として事前に定められた基準」がなければ現場では実行できません。規程は現場に権限を与える文書です。
カスハラを理由とした離職が続いても、対策を講じた記録がなければ、経営として打ち手を取っていたことを証明できません。採用コストの増大という形で数字に跳ね返ります。
規程づくりで最初に決めるのが、この形式の問題です。法的にはどちらでも義務を満たせます。指針は「方針を明確化し、周知・啓発すること」を求めているだけで、文書の形式を指定していないためです。判断は実務上の使い勝手で行ってください。
| 比較軸 | 就業規則に条文を追加する | 独立した「カスハラ対策規程」を作る |
|---|---|---|
| 分量 | 数条にとどめる必要がある。詳細なエスカレーション基準は書きにくい | 条文数の制約がなく、対処基準や記録方法まで書き込める |
| 改訂のしやすさ | 就業規則本体の改訂手続が必要で、頻繁な見直しには向かない | 該当規程のみを改訂すればよく、運用しながら育てられる |
| 社外への公表 | 就業規則全体を公表するわけにはいかないため、別途「基本方針」の作成が必要 | 規程を要約した基本方針を自社サイトに掲載しやすい |
| 労基署への届出 | 必要(常時10人以上の事業場) | 必要。独立規程も就業規則の一部とみなされる ※労働基準法第89条。届出漏れが起きやすいポイントです。 |
| 向いている企業 | 従業員数が少なく、文書を一本化したい企業 | 店舗・拠点が複数ある企業、対面接客がある企業 |
当社としては、独立規程を作成し、就業規則本則に「カスタマーハラスメントへの対応については別に定めるカスタマーハラスメント対策規程による」という委任条項を1条だけ置く方式を推奨します。就業規則の改訂を最小限に抑えつつ、運用の実態に合わせて規程だけを更新していけるためです。
なお、よくある誤解として「別規程だから労基署への届出は不要」というものがあります。これは誤りです。就業規則の一部を別規程として切り出した場合も、その別規程は就業規則の一部として届出の対象になります。委任条項を置いた時点で、規程本体も届出書類に含めてください。
ここからが本題です。厚生労働省告示第51号が求める5つの措置を、8つの条文でカバーする構成にしています。各条文の下に、指針のどの項目に対応するかを明記しました。自社の業種に合わせて第2条の例示と第5条の基準を調整すれば、そのまま採択できる形にしています。
本規程は、顧客、取引先、施設利用者その他の外部の関係者(以下「顧客等」という。)による著しい迷惑行為(以下「カスタマーハラスメント」という。)から従業員を保護し、従業員が安心して業務に従事できる就業環境を確保することを目的とする。
▶ 対応する指針項目:措置①(方針の明確化)
本規程においてカスタマーハラスメントとは、顧客等の言動であって、次の各号のいずれにも該当するものをいう。
2 前項に該当し得る言動の例は、次のとおりとする。ただし、これらに限られない。
3 顧客等からの申出のうち、商品またはサービスの瑕疵、役務提供の不備等に起因する正当な指摘については、カスタマーハラスメントに該当しない。この場合、会社は誠実に対応するものとする。
▶ 対応する指針項目:措置①(カスハラの内容の周知)
会社は、カスタマーハラスメントを一切許容せず、毅然とした態度で対応する。
2 会社は、カスタマーハラスメントを従業員個人の問題とせず、組織として対応する。
3 会社は、本規程の内容を要約した基本方針を作成し、自社ウェブサイトへの掲載、店頭への掲示その他の方法により、顧客等および社会一般に対して周知する。
▶ 対応する指針項目:措置①(方針の明確化・周知・啓発)
従業員は、顧客等の言動がカスタマーハラスメントに該当すると判断した場合、または該当するおそれがあると判断した場合、速やかに直属の上長に報告し、その指示を受けるものとする。
2 会社は、前項の報告があった場合、可能な限り当該従業員を一人で対応させないものとし、複数名での対応、対応者の交代または上長への引継ぎを行う。
3 従業員は、カスタマーハラスメントに該当すると判断した場合、上長の判断を待たずに対応を一時中断し、退避することができる。この場合において、会社は当該従業員を不利益に取り扱わない。
▶ 対応する指針項目:措置①(対処の内容の周知)、措置③(被害者への配慮)
会社は、顧客等の言動が次の各号のいずれかに該当する場合、特に悪質なカスタマーハラスメントとして、第2項に定める措置を講じることができる。
2 前項の措置は、事案の内容および程度に応じ、次の各号のうちから選択する。
3 前項第3号から第6号までの措置は、あらかじめ (役職名) の承認を得て行う。ただし、緊急を要する場合はこの限りでなく、事後速やかに報告する。
▶ 対応する指針項目:措置④(抑止のための措置)
会社は、カスタマーハラスメントへの対処の実効性を確保するため、次の各号に定める方法により、事案に関する記録を作成し、保存する。
2 前項の記録は、従業員の就業環境の確保、事実関係の確認および法的対応のために利用するものとし、これ以外の目的には利用しない。
3 会社は、第1項第2号から第4号までの記録を行うにあたり、その旨および利用目的を、店頭への掲示、自動音声案内、カメラ本体への表示その他の適切な方法により明示する。
4 第1項の記録の保存期間は、事案の終了後 年間とする。ただし、法的措置を検討している事案については、当該手続が終了するまで保存する。
▶ 対応する指針項目:措置③(事実関係の迅速かつ正確な確認)、措置④(対処を行うことができる体制の整備)
会社は、カスタマーハラスメントに関する相談窓口を (部署名) に設置し、その連絡先および利用方法を従業員に周知する。
2 相談窓口は、カスタマーハラスメントが現に生じている場合のほか、その発生のおそれがある場合ならびに該当するか否かの判断に迷う場合においても、広く相談に応じるものとする。
3 会社は、相談窓口の担当者に対し、対応に必要な研修を実施する。
▶ 対応する指針項目:措置②(相談体制の整備)
会社は、相談者、行為者その他本規程に基づく対応に関与した者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨を従業員に周知する。
2 会社は、従業員がカスタマーハラスメントに関する相談を行ったこと、事実関係の確認に協力したこと、または第4条第3項に基づき対応を中断したことを理由として、解雇その他の不利益な取扱いを行わない。
▶ 対応する指針項目:措置⑤(プライバシー保護・不利益取扱いの禁止)
上記8条で、指針の5措置がどこまでカバーできるかを整理したものが次の表です。規程だけでは満たせない部分がどこかを、採択前に確認してください。
| 指針の措置区分 | 該当条文 | 規程で満たせる範囲/別途必要な対応 |
|---|---|---|
| ① 方針の明確化と 周知・啓発 |
第1〜4条 | 規程でほぼ満たせます。ただし「周知」は別途、朝礼・社内掲示・研修等の実施記録が必要です。 |
| ② 相談体制の整備 | 第7条 | 窓口を「定める」までが規程の役割です。担当者が適切に対応できる状態にすること(研修・対応フロー・記録様式)は別途整備が必要です。 |
| ③ 事後の迅速かつ 適切な対応 |
第4条・第6条 | 事実確認の根拠となる記録の作成までは定められます。確認の手順、被害者への配慮措置、再発防止策の実施は運用側の設計になります。 |
| ④ 抑止のための措置 | 第5条・第6条 | 規程だけでは満たせません。指針は「対処を行うことができる体制の整備」を求めており、第5条の措置を実行する根拠となる客観的記録を残す仕組みが必要です。 |
| ⑤ あわせて講ずべき措置 | 第8条 | 規程で満たせます。あわせて、録音・録画データへのアクセス権限の設定など、実際の情報管理ルールが必要です。 |
公開されている条文例をコピーして採択した企業でよく起きているのが、次の3つの問題です。いずれも「規程はあるのに、いざというときに使えない」という結果を招きます。経営として決裁する前に確認してください。
最も多い失敗です。指針が定めるカスハラの3要素は「①顧客等の言動であること/②社会通念上許容される範囲を超えていること/③労働者の就業環境が害されること」であり、この3つをすべて満たすものがカスハラです。
ところが、ひな形の中には「顧客からの暴言・暴力・不当要求をカスハラという」といった行為の列挙だけで定義しているものがあります。この書き方には2つの問題があります。ひとつは、列挙されていない新しい態様(SNSでの晒し、AIを使った音声合成による嫌がらせ等)に対応できないこと。もうひとつは、指針の定義と社内定義が食い違い、行政調査の際に「指針に沿った方針とは言えない」と指摘されうることです。
定義は指針の3要素をそのまま書き、行為の例示は「これらに限られない」と留保をつけて第2項に置く。この構造にしてください。本記事の第2条はこの形にしています。
「著しく悪質な場合は対応を打ち切ることができる」──この一文だけで済ませている規程が非常に多く見られます。しかし、「著しく」を判断するのは現場の従業員です。基準が抽象語のままでは、結局は個人の判断に委ねられ、規程がない状態と変わりません。
指針⑧は「特に悪質と考えられるカスハラへの対処の方針をあらかじめ定め」と書いています。あらかじめ定めるとは、事後に解釈が分かれない程度に具体化することを意味します。「おおむね1時間を超える対応要求」「対応終了通知後の再度の来訪」のように、時間・回数・行為態様で線を引いてください。本記事の第5条第1項がその例です。
数値基準を入れることに抵抗を感じる経営者の方は少なくありません。ただ、数値を入れないことで守られるのは会社の裁量ではなく、判断を押しつけられる現場の負担だけです。
「証拠として録音・録画を行う」とだけ書いた規程は、措置⑤(プライバシー保護)と矛盾するリスクを抱えます。録音・録画で取得する映像や音声は、特定の個人を識別できる場合、個人情報保護法上の個人情報に該当します。利用目的を特定し、本人が認識できる状態に置くことが求められます。
自らが当事者となる会話の録音(当事者録音)は一般に違法とはされていません。店舗等での録画も、目的を明示し、目的外に利用しない運用であれば問題は生じにくいと考えられます。ただしそれは、規程に「利用目的の限定」「明示の方法」「保存期間」まで書き込んであることが前提です。本記事の第6条第2項から第4項がこれに当たります。
この3項目が抜けた録音・録画条項は、従業員から「監視されている」という反発を招き、顧客からは「無断で撮っている」というクレームの材料にされます。規程で守るはずの信頼を、規程で毀損することになりかねません。
規程は起点であって、ゴールではありません。指針の5措置を実際に満たすには、条文と運用をつなぐ次の3点が必要です。それぞれ、規程のどの条文に紐づくかを示します。
窓口を規程に書いただけでは措置②を満たしません。指針は「相談窓口担当者が適切に対応できるようにすること」まで求めています。誰が担当するか、外部委託するか、相談を受けた後の手順をどう設計するかを決める必要があります。詳しくはカスハラ相談窓口の設置手順で解説しています。
措置③の「事実関係を迅速かつ正確に確認する」には、誰がいつ何を確認し、どの様式に残すかの手順が要ります。記録様式が事前にないと、発生直後の最も重要な情報が失われます。詳しくはカスハラ事案の事実確認フローをご覧ください。
第5条に「出入禁止」「警察への通報」と書いても、その判断を裏づける記録がなければ実行できません。措置④が求める「対処を行うことができる体制の整備」の核心はここにあります。詳しくは悪質クレーマーへの対処と証拠保全で解説しています。
ここまで読まれた方には、規程の実効性が最終的に「記録を残せているかどうか」に収束することがお分かりいただけたと思います。
第5条で定めた段階的措置──警告、対応の打切り、取引停止、出入禁止、警察通報、法的措置──は、いずれも会社が相手方に対して不利益な処分を行うものです。相手から「そんな事実はない」と反論されたときに、それを覆せる客観的な材料がなければ、会社は判断を避けます。判断を避ければ、現場は再び一人で耐えることになります。規程が守るはずだった従業員が、規程があっても守られないという結果です。
防犯カメラの死角や、訪問先・屋外など、固定カメラでは記録できない場面をカバーします。装着していること自体が抑止力として働くため、そもそも悪質化を防ぐ効果も期待できます。
執拗な電話や長時間の拘束は、通話録音と「録音します」の自動音声案内(IVR)でトーンが変わります。第5条第1項第3号の「おおむね1時間」を客観的に立証する材料にもなります。
映像・音声があっても、5W1Hで整理した対応記録がなければ、事実確認でも法的対応でも使いにくくなります。第6条第1項第1号の様式は、規程とセットで準備してください。
「社内のWi-Fi環境がない」「動画のアップロードで社内ネットワークが遅くなる」といった懸念は不要です。独立した通信回線ベースで運用できるため、屋外の現場や訪問先でもそのまま導入できます。
遠隔地にいる管理者や本部のPC・スマホへ、現場の映像を瞬時に共有できます。規程第4条第2項の「可能な限り一人で対応させない」を、人員を増やさずに実現する手段です。第5条第3項の承認判断も、管理者が状況を見たうえで即座に行えます。
他社製品の多くが「レンタル」や「リース」限定の中、当社は社内稟議や決裁が通しやすい「買い取り」にも対応しています。
残り時間から逆算すると、着手が遅れている企業でも次の順序であれば間に合います。順序を入れ替えないでください。規程が固まる前に研修を行うと、二度手間になります。
| STEP | やること | 実務のポイント |
|---|---|---|
| STEP1 〜8月末 |
現状の点検と 規程の起案 |
本記事のひな形をベースに、第2条の例示と第5条の基準を自社の業種に合わせて調整します。第5条第3項の承認者、第6条第4項の保存期間、第7条の窓口部署を決めれば起案は完了します。 |
| STEP2 〜9月中旬 |
意見聴取・決裁・ 労基署への届出 |
労働者代表からの意見聴取(意見書の作成)を経て、就業規則本則の委任条項とセットで労働基準監督署へ届け出ます。常時10人以上の事業場が対象です。専門家のレビューを入れるならこの段階です。 |
| STEP3 〜9月下旬 |
社内周知と 社外公表 |
規程の配付・掲示に加え、周知した事実の記録を残してください。あわせて第3条第3項に基づく基本方針を自社サイトに掲載します。社外公表は顧客側への抑止としても機能します。 |
| STEP4 〜9月末 |
運用体制の稼働 | 相談窓口の開設、記録様式の配備、録音・録画環境の導入と明示(掲示・自動音声)を完了させます。機器の導入はリードタイムがあるため、STEP1と並行して見積取得を進めるのが現実的です。 |
STEP4の機器導入について、自治体の制度を活用できる場合があります。2026年8月時点で確認できる主なものは次の2つです。
| 制度 | 内容 |
|---|---|
| 東京都 企業向け奨励金 |
定額40万円/常時雇用300人以下の都内中小企業等。マニュアル作成・周知+基本方針の社内外周知が必須要件で、選択要件のひとつが録音・録画機器の整備です。 ※令和8年度 第1回の事前エントリー(6/25〜7/9)は受付終了。第2回の要項は東京都の特設サイトで公表予定です。 |
| 名古屋市 中小企業カスハラ 対策支援補助金 |
補助率1/2以内・上限30万円(対象経費10万円以上)。ウェアラブルカメラ、通話録音装置、社労士等への謝金が対象経費です。受付は2026年10月30日(金)17時必着。 ※申請にはセミナー受講済み・個別相談済みの前提条件があります。詳細は実施機関の公式サイトでご確認ください。 |
いいえ。法令や指針は文書の形式を指定していないため、就業規則に条文を追加する形でも義務は満たせます。ただし、対処基準や記録方法まで書き込むことを考えると、独立規程として作成し、就業規則本則から委任するほうが実務上扱いやすくなります。
必要です。就業規則の一部を別規程として切り出した場合も、その別規程は就業規則の一部として取り扱われ、常時10人以上の労働者を使用する事業場では届出の対象となります(労働基準法第89条)。届出漏れが起きやすい点なのでご注意ください。
規程の作成そのものは義務ではありませんが、カスハラ対策の措置義務は労働者を1人でも雇用していれば適用されます。労基署への届出義務がないだけで、方針を明確化し周知する義務は同じです。文書化しておかなければ「周知した」ことを証明できないため、規模にかかわらず作成をおすすめします。
いいえ。規程に書くだけでは足りません。取得する映像・音声が個人情報に該当する場合、利用目的を特定し、本人が認識できる状態に置く必要があります。店頭掲示、自動音声案内、カメラ本体への表示などで明示し、目的外に利用しない運用を徹底してください。本記事の第6条第2項〜第4項がこの点を担保する条文です。
「〜することができる」という裁量規定の形にしておけば、必ず措置を講じなければならないわけではありません。基準は現場が対応を打ち切ってよいと判断するための下限であって、会社の義務ではないという建て付けにしてください。数値がないと、判断の負担がすべて現場個人に移ります。
なりません。指針は5つの区分・全10項目の措置を求めており、規程で満たせるのはそのうち方針の明確化とプライバシー保護・不利益取扱いの禁止が中心です。相談窓口の実働、事実確認の手順、そして措置④が求める「対処を行うことができる体制の整備」は、規程とは別に運用として整える必要があります。
カスハラ対策規程に必要な条文は、目的・定義・基本方針・従業員の対応・悪質行為への対処・記録と証拠の保全・相談窓口・プライバシー保護と不利益取扱いの禁止の8つです。独立規程として作成し、就業規則本則から委任する形が最も扱いやすく、常時10人以上の事業場では労基署への届出を忘れないでください。
ひな形を流用する際は、①定義を指針の3要素に合わせる、②対処基準を時間・回数・行為態様で具体化する、③録音・録画条項に利用目的・明示方法・保存期間を書き込む──この3点を必ず確認してください。この3つが欠けた規程は、あっても現場で使えません。
そして最後に、経営判断としてお伝えしたいことがあります。規程の実効性は、条文の巧拙ではなく、記録が残る仕組みがあるかどうかで決まります。出入禁止も、警察への通報も、客観的な証拠がなければ会社は決断できません。10月1日までに、条文と同じ熱量で「記録できる体制」を整えてください。
出典:厚生労働省告示第51号「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(2026年2月26日告示)/厚生労働省「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます!」/労働基準法第89条・第106条/労働契約法第5条